厚生省は、詳しく説明するのだが、「ウイルスに感染していなかったペット住どうなるのか」という。
「感染の有無を調べて、感染しているペットだけを捨てるのならまだわかる」と食いさがる。
これには厚生省も辞易した。
なにしろ、厚生省がペットを捨てるようにといったことは一度もない。
国民が自分の判断で危険と感じてペットを捨てたのだといっても、そういう誘導政策をしたのが厚生省だという。
これは日本だけの現象ではなく、イギリスなどは、もっとひどかった。
厚生大臣が何者かに刺されるという事件も起き、ロンドン警視庁は「犯人は動物愛護協会だ」と発表。
マスコミは、「動物を守って人間を殺す」と漫画入りでやったものだから、こんどはその新聞社が襲われるという事件まで起きたぐらいである。
その点、日本では、マスコミは賛否両論を扱ったが、多くの国民は「命あってのものだね」というほうに味方した。
結局、動物愛護協会とは“受難犬猫の碑”というのを、上野の公園の中につくるということで折り合った。
一件落着ではあったが、ペット問題はともかくとして、ウイルス学者たちは、このまま下火になっていくという見通しを持ちながらも、再びそういうことの起きる可能性は高く、そのためには、今回の病気をきっちり解明しておく必要があると考えた。
しかし、どうしてもわからない点は、なぜ、ブタはこれだけのウイルスを体内に持っていて、発病しないのかというメカニズムと、なぜ他の動物は、強烈にやられてしまうのかということであった。
研究は続けられてはいるが、どうも決め手を欠く。
1月末の会議に、久しぶりにK博士が上京してきた。
75歳というのに、若く見える。
K博士は、初老のころでも髪は黒々としていて、仲間に「染めているのか」といわれたぐらいである。
さすがに近ごろは白いものが混じっているが、きわめて元気である。
みんなに挨拶をして、「大変でしたな」とねぎらって着席した。
みんな、K博士の見通しが正確であったことに舌を巻いていた。
どうして、あれだけの的確な予測ができたのかという質問が相次いだ。
K博士は、次のように答えた。
「おほめにあずかって、非常に恐縮しています。
私は長い間、インフルエンザを中心にした臨床とウイルスの研究をしてきましたが、私がいつも心がけていましたのは、人間の立場でものを考えるのではなく、ウイルスの立場というものに立って考えるということです。
ウイルスの立場に立ってみると、いま、その世界は大変なのではないかと思うのです。
まず、第一には、いろいろの化学物質や、抗生物質の開発などによって、ウイルスの世界でも、バランスが崩れようとしているのではないかと思うのです。
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